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爆心(青来有一 著)
長崎に生まれ育ち、原爆資料館長を務めた経歴をもつ著者が、「爆心地」のその後を生きる人たちの内面に降り立って描いた六つの短篇。
息子が抱える心の闇におののく老父婦、失脚し故郷へ戻ってきた政治家、不倫の淵へと自らを導いていく女性。それぞれの個人的な物語の中に、不意に現れる原爆の光、そしてキリシタンの悲劇へとつらなる「土地の記憶」に慄然とさせられる。
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ちょうどその時、サイレンが鳴り響き、教会の鐘が打ち鳴らされました。わたしはどぎまぎして、「十一時二分よ」とあの子に言いました。
「それがどげんした……」
あの子はぶっきらぼうに呟き、自転車の傍らに座りこんで、さらになにかを言いましたが、サイレンの音に重なって、よく聞こえませんでした。
わたしは下着もつけないで黙祷することが、どうしようもない冒瀆に思えて、木漏れ日がまぶしい空を仰いでいました。
(「蜜」より)
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◎Contents
釘
石
虫
蜜
貝
鳥
絶版または版元品切れ
ソフトカバー ダストカバー 帯あり
□publisher:文春文庫
□date of issue:2010年 初版
□size:15.2x10.6cm
□page:324
□condition:経年なり・良好 帯傷み
» 小説
https://narda.thebase.in/categories/1326662
息子が抱える心の闇におののく老父婦、失脚し故郷へ戻ってきた政治家、不倫の淵へと自らを導いていく女性。それぞれの個人的な物語の中に、不意に現れる原爆の光、そしてキリシタンの悲劇へとつらなる「土地の記憶」に慄然とさせられる。
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ちょうどその時、サイレンが鳴り響き、教会の鐘が打ち鳴らされました。わたしはどぎまぎして、「十一時二分よ」とあの子に言いました。
「それがどげんした……」
あの子はぶっきらぼうに呟き、自転車の傍らに座りこんで、さらになにかを言いましたが、サイレンの音に重なって、よく聞こえませんでした。
わたしは下着もつけないで黙祷することが、どうしようもない冒瀆に思えて、木漏れ日がまぶしい空を仰いでいました。
(「蜜」より)
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◎Contents
釘
石
虫
蜜
貝
鳥
絶版または版元品切れ
ソフトカバー ダストカバー 帯あり
□publisher:文春文庫
□date of issue:2010年 初版
□size:15.2x10.6cm
□page:324
□condition:経年なり・良好 帯傷み
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